アベノミクス:真の目的は、輸出拡大ではなく、国内消費の誘発(その2)

2013/5/23 Thursday
By Market Sense International, Ltd. クレイ・ゲリー
昨年12月に、安倍政権が掲げる一連の経済政策「アベノミクス」が発表されて以来、円安が進み、米ドルに対するこれまでの最高値から30%も下落しています。「短観」を見る限り、日銀幹部は、依然として先行きへの慎重な見方を示していますが、業界では、日本市場向けに新規事業開発が行われるなど、景況感には顕著な変化が見られるように思います。2011年3月の東日本大震災後、強まっていた悲観的でリスク回避的な動きに比べると、これは明るい兆しと言えるでしょう。しかし、欧米のメディアはアベノミクスが日本経済に及ぼす実質的影響を誤って伝えているように感じられます。これはとても残念なことです。アベノミクスは上手く利用すれば、近年、日本の市場にあまり注目してこなかった欧米企業にとって、日本へのビジネス参入やシェア拡大の絶好のチャンスとなるからです。日本は、依然、世界最大かつ最も収益性の高い市場なのです。

本コラムの第1部では、アベノミクスに対する誤解について概観してきました。この経済政策の目標は、輸出志向型経済の回復だけではありません。真の目的は、国内消費の誘発にあります。第2部では、なぜアベノミクスが、日本の消費者向けにビジネスを展開する多国籍企業にとって重要な契機となるか、また日本市場へ未参入の多国籍企業にとっては参入の絶好のポイントとなるのか、そのメカニズムを掘り下げたいと思います。

米国企業で、日本に長年にわたり国内販売およびマーケティングの子会社を置く「A社」を例に考えてみましょう。2007年、A社の日本における売上高は12.5億円、USドル/円の為替平均レートは1ドル122.5円でした。米国に本社を置き、株式を公開しているA社は、2007年の年次報告書の中で、日本での売上高について1.02億ドルをわずかに上回ったと報告しています。2008年、第四四半期に世界的な経済危機のあおりを受けて国内消費が落ち込んだ結果、日本におけるA社のビジネスは伸び悩みました。しかしながら、ドル安のおかげで、125億円の収益はドル建てで1.16億ドルに膨らみ、収益は12%増となりました。A社の本社は、12%の伸びは為替差益によるという事実を公表したと思われます。要因がなんであれ、会社にとってはプラスの成長であり、良い結果をもたらしました。

2009年になると、世界的な経済危機が日本の消費者市場の足かせとなります。A社は、厳しい経済環境下にもかかわらず奮闘しました。競合他社に市場シェアを譲ることなく、日本国内の売上高は10%減少の112.5億円でした。しかし、円高がさらに9.5%進み、ドル建てでの売上高は約1.16億ドルを保ちました。一方で、米国市場では売上高が15%減少したため、やむを得ず人員の20%解雇へ踏み切りました。A社の本社は、全世界での収益率を改善、負担を共有するために、日本子会社の従業員も5%をリストラすることを決めました。

2010-2012年の間、A社の日本子会社は、人員削減にもかかわらず、懸命な販売活動を続けました。2010年の売上高は横ばい。2011年は東日本大震災の影響により、日本での売上高は10%下落しましたが、2012年の売上高は112.5億円となり、およそ2009年の水準に回復しました。しかしながら、歴史的な円高の進行により、日本の売上高は本社で1.35億ドルに膨らみ、金融危機前と比べて、30%の増益を実現しました!けれども、現実的に見れば、世界的な景気減速による厳しい経済環境下で、A社の日本子会社は平均な売上高を達成したというだけです。A社は、人員削減や東日本大震災の影響の下、実質ベースでみると、売上高は同じ水準を保つことができました。一方で、A社は積極的な成長戦略を展開しなかったとも言えるでしょう。つまり、消費が停滞するなかでは、新規あるいはリスク要因となる事業は回避したということです。

それでは、問題は、アベノミクスがA社のビジネス戦略にどう影響するのかということです。おそらく、2013年のA社は、世界経済の継続的な改善への期待から10%程度の伸びを確保するでしょう。しかし、2013年4月になってようやくA社は、日本での売上高10%増が、実際にはドル建てで1.25億ドルの「損益」につながる可能性があることに気づくでしょう。当然、アベノミクスがインフレを推進するなかで、A社には価格の引き上げと、為替差損を回復するチャンスが与えられています。一方、米国で堅調なグローバル展開を続けるA社の本社は、日本子会社に為替差損を補填するための措置を講ずることと、実質ベースでのビジネス成長を目指すことを緊急に要請しています。A社は、市場の景況感が改善されるまで、先送りしていた画期的な新製品の発売に「いまこそ」取り組むべきだと判断するでしょう。そのためには、新たな販売・マーケティング活動をサポートする新規スタッフを雇わなければなりません。本社の承認を得て、すぐにこの計画を実施するための準備を開始する必要があります。日本の消費者が新製品やサービスを価値あるものと認めれば、財布の紐も緩むことでしょう。A社の新製品が高品質であるならば、2013年のA社の成功は間違いありません。

A社の例は、日本で事業を展開する多国籍企業が2013年に何をすべきかについて、明確なヒントを与えてくれます。A社は5年ぶりに、新製品を販売、新規スタッフを採用、新たな事業を発表しています。私は、このような話を、東京でビジネスに関わる外国人コミュニティのネットワークからよく耳にします。日本企業が同様に市場における新たな活力へ投資すべきことに疑いの余地はありません。A社及び日本の競合他社は、新製品やサービス立ち上げのために設備投資や雇用創出を行い、さらに新製品を購入する消費者を増やすことによって、国内消費の拡大に貢献するでしょう。こうして、経済活動により新たな経済活動が生み出され、消費者市場が成長を遂げ、アベノミクスが描く成果は順々に証明されていくでしょう。その結果は、日本へのビジネス参入を果たしていない多国籍企業に、大規模で、収益性の高い洗練された日本の市場を真剣に考えるこの上ない機会をもたらします。

さて、アベノミクスは、あなたの日本におけるビジネス戦略にどう影響するでしょうか?