アベノミクス:真の目的は、輸出拡大ではなく、国内消費の誘発(その1)

2013/4/30 Tuesday
By Market Sense International, Ltd. クレイ・ゲリー
昨年12月に、安倍政権が掲げる一連の経済政策「アベノミクス」が発表されて以来、円安が進み、米ドルに対するこれまでの最高値から30%も下落しています。「短観」を見る限り、日銀幹部は、依然として先行きへの慎重な見方を示していますが、業界では、日本市場向けに新規事業開発が行われるなど、景況感には顕著な変化が見られるように思います。2011年3月の東日本大震災後、強まっていた悲観的でリスク回避的な動きに比べると、これは明るい兆しと言えるでしょう。しかし、欧米のメディアはアベノミクスが日本経済に及ぼす実質的影響を誤って伝えているように感じられます。これはとても残念なことです。アベノミクスは上手く利用すれば、近年、日本の市場にあまり注目してこなかった欧米企業にとって、日本へのビジネス参入やシェア拡大の絶好のチャンスとなるからです。日本は、依然、世界最大かつ最も収益性の高い市場なのです。

このコラムでは、2度にわたって以上の点をお話したいと思います。第1部では、アベノミクスに対する一般的な誤解について、第2部では、多国籍企業にとって、なぜこの政策転換が日本市場でのビジネス拡大または参入の重要な契機となるかを考えます。

欧米メディアのアベノミクスに対する見方は肯定的と言えるでしょう。「いま日本は景気回復のため、輸出拡大にさらに力を入れる計画を立てている。よくある話ではないか」と。しかし、この考えは日本産業界の構造に対する時代遅れな見方に基づいているのではないでしょうか。確かに、一昔前の1980年代なら、円安によって日本製品の価格競争力が増し、日本の経済成長を実現したかもしれません。これこそ、20世紀後半の日本の高度経済成長の秘密であり、世界経済に対し輸出主導の「日本株式会社」という神話を生み出したもとでもありました。

しかし、今や日本の多くの生産拠点が日本国内からアメリカや中国、タイ、その他の国々へ移転している事実を無視しては、今の市場をめぐる激しい覇権争いは議論できません。確かに、1991年までの日本は輸出志向型で、1980年代バブル期の株高を利用して、莫大な借入による資金調達を行い、国内生産を行ってきました。しかし1990年代後半以降は、国内の余剰生産能力を継続的に、しかも大幅に削減する動きが加速し、皆さんもご存じの通り、国内生産の「空洞化」を招く一方、生産能力の海外移管が着実にかつ劇的に進んでいます。

これを顕著に示しているのが、アメリカン・ホンダモーターの例です。2012年12月、アメリカン・ホンダモーターは、米国内での年間生産・販売台数100万台に加えて、米国からの累計「輸出」台数が100万台に到達したと発表しました。また2014年中に、米国の生産拠点から海外への輸出台数が、日本から米国への輸出台数を超える見通しだそうです。さらに、1987年に初の米国製の車両を輸出して以来、220億ドル分の自動車部品と車両がホンダの米国工場から輸出されているというプレスリリースの数字は驚くべき数字でした。この発表から、日本株式会社の海外生産拠点の規模がいかに大きいか、ひいてはドルや円以外の外貨建ての収益にどれだけ依存しているかが浮き彫りになっています。

こうした点から、アベノミクスの目的は輸出拡大だけを目指した政策ではないとお話ししたいと思います。日本企業が、弱い外貨を売却して本国に利益を送金する場合、円高では為替差損が生じます。その反対で、円安に進むと為替差益によって、海外市場での取引から得られる収益は「プラス」になります。これが今回の円安で日経平均株価が上昇した理由です。さらに、株式市場が好調に動くと、日経平均株価に影響力のある日本の大企業で働く人々により国内消費が拡大することは容易に想像がつきます。しかしながら、私がもっと注目していることは、ドル/円の為替変動が日本国内の多国籍企業に与える影響です。

次回は、そのメカニズムについて、お話したいと思います。