アラブ首長国連邦のメディア事情

2012/12/19 Wednesday
Charlotte Sharwin, PR Director Zed Communications
UAE  アラブ首長国連邦(UAE)をよく知らない方のために、はじめに国の成り立ちについて少しお話しましょう。UAEは7つの首長国(アブダビ、アジュマーン、フジャイラ、シャールジャ、ドバイ、ラアス・アル=ハイマ、ウンム・アル=カイワイン)から成り立つ連邦国家です。かつては休戦諸国(Trucial States)と呼ばれていましたが、1971年にイギリスから独立した後、アラブ首長国連邦に名前を変え、その後中東経済の中心地へと急速に発展してきました。

10年前までは読みごたえのある雑誌を買おうと思ったら、空港へ行き通常の3倍もの代金を払わなければいけないほど、メディア環境は乏しいものでしたが、現在では、様々な出版社が社を構えるほどアブダビ、ドバイはアラブ有数のメディアハブへと成長しています。
今回は、この急成長を遂げているアラブ首長国連邦のメディア業界についてご紹介したいと思います。

ドバイに存在する雑誌社の中で、英系のITP publishing社は75本の週刊誌・月刊誌を発行し、デジタル分野でも幅広い書籍を出版しています。メディア事業以外にも、年間50本以上の企業カンファレンスや消費者イベントの企画開催、エティハド航空機内誌の制作、ドバイ・ワールド・トレード・センター主催の企画展やショーの制作物、リテール業界や金融機関の出版物など、業務エリアは多岐にわたります。

一方、20誌以上の雑誌と300以上の書籍を抱えるMotivate Publishing社の動きも注目です。ここ2年間に米コンデナスト社のフラッグシップ誌「Vogue」「GQ」を立て続けにローンチし、2013年にはVogue/GQカフェをドバイにオープンする計画です。

次に、新聞各紙(主要メディアは「The National」「The Gulf Times」「The Khaleej Times」の3紙)を見てみましょう。

アブダビ政府の協力のもと2008年4月17日に創刊された日刊英字紙「The National」はとてもユニークな新聞です。欧州各紙に匹敵するメディア倫理規範と、中東社会の発展に寄与するという、2つの目標を掲げ、メディア規制がとりわけ厳しい中東地域においては実験的なメディアと言えます。

創刊にあたっては、グローバルに活躍する国際ジャーナリストに熱い視線が注がれ、事実、「Wall Street Journalや「The New York Times」、「The Daily Telegraph」といった一流紙から多くの記者が流れ込みました。元「The Daily Telegraph」記者で「The National」編集長のMartine Newlandもその一人で、彼は大勢の元テレグラフ記者たちを引き連れてきました。

余談ですが、こうした動きは歓迎すべきものでしたが、他方で信じがたいような出来事も引き起こしました。2009年、The National 編集長の月収53,000ドル(非課税)を含む、スタッフ253名が法外な高額報酬を受け取っている、とWikileaksが報じたのです。

その影響からか、ここへきてThe Nationalからの人材流出が続いています。アブダビに関する取材報道の中で情報隠ぺいなどが明らかになり、エディトリアルの要職が次々と辞職。また、土曜日発行の雑誌「M」が突如、廃刊となり、業界内では、広告収益や購読率の低下から政府援助が打ち切られたためでは、など様々な憶測を呼んでいますが、報道規制の厳しい中東地域において、数少ない読み応えのある雑誌が姿を消してしまうことは、個人的にはとても残念なことです。

一方、The Nationalの衰退をしり目に、最近大きく発展を続けているのがUAEの老舗メディア「Gulf News」です。1978年の創刊以来、伝統的な主要メディアとして長らく愛読されてきましたが、ここへきて、コンテンポラリーなフォントを採用し、紙面に使用する色を変更。また、版形を一般的な大判サイズから一般紙と夕刊紙(タブロイド紙)の中間サイズに変えるなど、ブランドイメージの転換を図っています。新興メディアの「The National」がつまずくのを待ち構えていたかのように、新たなクリエイティブハウスとの契約を結び大規模な紙面改造に取り組んでいます。

とはいえ、着目点や批判的記事を裏付ける根拠といったジャーナリズムの点ではThe Nationalとの開きは以前大きいのが現状です。時には英語が不明瞭であったり、またPR業界の常識では考えられないことに、他社が発行したプレスリリースの内容を恣意的に引用、変更して掲載することも。残念ながら、113,000部というUAE随一の発行部数や、新聞の収益優先といった事情から、ジャーナリズムの精神が曲げられてしまうこともあるのです。

その他にも、「British Daily Mail」「FT」「Times」といった英字紙が、イギリス発信の紙面を元にドバイで印刷され発行されており、また、「7 Days」「The Express」といったフリーペーパ(日刊)も、ゴシップや充実した地域・コミュニティニュースで人気を集めています。

続いて電波メディアの最近の動きについても簡単にご紹介しましょう。

UAEは様々な人種が混在する国際都市です。このため、国内のラジオ市場はとても多様で、様々な言語の番組が多数放送されています。2011年にはドバイに400万人もいるといわれるイラン人向けのラジオ局Arabian Radio Network (ARN) 社が、「Radio Shoma」をスタートしたばかりです。一方テレビは、アブダビ、ドバイともに、政府による国有化、管理が進んでおり、Abu Dhabi Media社、Dubai Media Incorporated (DMI)が、統制のもと運営されています。

最後にソーシャルメディアの現状です。

UAEでも例外なく、ソーシャルメディアの影響力は日に日に強くなってきています。近年のリサーチでは人口の約4割が従来型の印刷媒体ではなくインターネットを通じて情報を得ており、2011年の調査では、UAE国内のインターネット利用率は中東地域で最も高い69%を記録。現在の利用者数は5,148,664人にも上ります。(Internet World Statsより) 

他の国や地域と同様に、デジタル媒体は急激に発達してきていますので、今後もメディア業界全体に大きな影響を及ぼすことが予想され、熱い視線が注がれています。

次回は、ドーハを中心としたカタールのメディア事情について、お話します!