イタリア客船座礁事故に関する日本の報道について

2012/1/24 Tuesday
株式会社ターミナル クルーズ コンシェルジュ 一柳 元子

コスタ・コンコルディア座礁事故で、お亡くなりになられた方に謹んでお悔やみ申し上げますとともに、事故に遭われた乗客のみなさま、心待ちにしていた船旅の変更を余儀なくされた方々へ心からお見舞い申し上げます。


costa concordia 私がこの第一報を知ったのは、1月14日夕刻、自宅で寛いでいる時であった。座礁した客船が日本人の多く乗船するコスタクルーズであること、死者が出ていることを知り凍りついた。その後、わりと早い段階で「邦人全員無事」とのニュースに少し安堵したものの、一夜明け、トレードマークの黄色い煙突を横にして座礁する「コスタ・コンコルディア」の映像に愕然。クルーズファンとして胸がつぶれる思いであった。

幸い、日本人乗客が全員無事で、早々に帰国したこともあり、日本のメディアの扱い方は穏やかになった。しかし、世界のクルーズ市場の9割を占め、年間1400万人以上がクルーズを楽しむ欧米各国の加熱報道は、当分おさまりそうにない。事故原因や詳細が明らかになるにつれ、船長の呆れた言動やタイタニック絡みのネタなどゴシップにも事欠かず、イタリアでは逃げる船長を一蹴した隊長の言葉が書かれたTシャツが人気だとか。

この1週間、日本での報道と世間の反応を複雑な想いで傍観してきたが、この場をお借りして、今回の海難事故における日本の報道について、いささか私見を加えて述べたいと思う。

まず、報道第一報から気になったのは、「豪華客船」という言葉の氾濫である。なぜならコスタクルーズのクルーズ料金は、客室平均1人1泊約100ドル(約¥8000)、7泊8日クルーズの場合でも日本円で約64000円である。おまけに18歳以下の子供は無料なので欧米では子連れで気楽に参加できるカジュアル客船として知られている。しかし日本では繰り返し「豪華客船」として取り上げられていた。テレビでは、最上のスイートルームだけを取り上げ、レストランやカジノ、劇場などの船内施設の映像で豪華絢爛さをアピールしていた。初めて大型客船の内部を見た人は、客船というのはタイタニックの映画みたいにすごいんだなぁと感心したことだろう。映像に偽りはない、しかし近年の客船では平均的な施設であることを伝えたい。表現は自由であるが、私は、今回のニュースを見た人が、コスタクルーズを豪華客船=最高級の客船と認識してしまうことを懸念している。そして、私たちが賢明に払拭しようとしている「クルーズ=豪華客船」の既成概念がさらに日本で固定化するのが心配なのだ。コスタクルーズの魅力は、誰もが気楽に楽しめるイタリアンスタイルのカジュアル客船だからである。コスタらしい陽気な(それも美男美女)イタリア人クルーの笑顔やおもてなしに日本人リピーターも多い。

そして、報道を見て多くの人が驚いたのがその大きさと収容人数のようだ。コスタ・コンコルディアは総トン数11万4500トン、乗客定員3780名/乗組員1100名、客室数1500室、全長290mの大型客船である。ある報道で、その大きさを、横浜ランドマークタワーを横にして海に浮かべた状態と説明していたが、まさにその通り! 満室時には4880名が暮らす巨大施設がそのまま海に浮かんでいることになる。船内にはいくつものレストランやバー、ラウンジや劇場、カジノやゲームセンター、カラオケやディスコ、有名スパやジム、無料の託児所まで備える。しかし、この大きさと船内施設もまた、近年ではごく当たり前の規模である。

さらに、今回の一連の報道でクルーズって案外安いんだな、と気づいた人も多かったのではないだろうか。ほとんどの報道が、旅行会社企画の添乗員付団体旅行の料金を例に出し、今回のクルーズを航空券込みで17万?28万ぐらいとしていた。今はオフシーズン、真冬の地中海はクルーズ料金も航空運賃も最安値に近い。個人旅行であれば12万円ほどでクルーズ旅行が可能だろう。

日本でなされていた報道を通じて私が痛感したことは、多くの日本人は、今回の海難事故報道を通じてはじめてクルーズについて知ったということである。客船の大きさに、その贅沢で充実した船内施設に、そして意外な安さに多くの人が驚いていた。以前、本コラムで「なぜクルーズは日本で売れないのか」というテーマでその理由について述べたが、今回の報道は如実にその問題が浮き彫りにされた。「高い、退屈、世界一周」という日本人のクルーズに対する固定された既成概念ゆえに、いまだに多くの人たちはクルーズと無縁だったのだ。長くクルーズの販売をしてきた人間にとって残念でならない。

また、TVで流れる報道は、情報の収集が貧小なことから、適切な取材先にたどり着いていないと感じる。これは、クルーズ業界がいかに知られていないかを意味する。この一週間、私の見る限りどこにも客船の専門家は出ていなかった。これではクルーズの本当の魅力は伝わらない。

クルーズは、対価が高い(Value for money)旅として、欧米で大変人気が高い。予算や目的に合わせて、誰もが何度でも愉しむ旅として定着している。そして世界の8割の客船はコスタのようなカジュアル客船である。みなさんに、今回の報道映像でクルーズが手の届くものだと知ってもらえたら嬉しい。そして実際に乗船してクルーズ天国を満喫してほしい。だからこそ、今回のような悲惨な事故は2度と起きてはならない。

日本を含む世界のメディアは今回の事故原因を船長による過失と決め付けず、人災の背景についても追求すべきである。

そして、そろそろ「コスタ・コンコルディアのクルー達が腕を組み壁をつくりお客さまが海に落ちるの必死に防いでいた」という話しも報道してほしい。クルーズファンの気持ちは複雑である。