なぜ日本ではクルーズが売れないのか

2011/10/25 Tuesday
株式会社ターミナル クルーズ コンシェルジュ 一柳 元子
クルーズ 突然ですが、みなさまは船旅をしたことはありますか? クルーズ客船の楽しさを知っていますか?平均的なクルーズ料金はいくらかご存知ですか? このコラムを読まれているみなさまはすべて“NO”という方も多いのではないでしょうか。市場経済、トレンドに敏感なみなさまでさえそうなのですから、日本におけるクルーズビジネスの規模は推して知るべしですね。年間1650万人以上の人が海外旅行に出かける時代に、なぜ日本ではクルーズ旅行が広まらないのでしょう。15年以上クルーズ販売に携ってきた私としてはこの体たらくを猛省しつつ、「なぜ日本ではクルーズが売れないのか」このコラムを通じ、言い訳も交えつつお話したいと思います。

 なぜ?それはみなさまの多くが“NO”と答えたことが一番の理由です。そう、誰もクルーズのことを知らないし、「自分とは無縁なもの」と決めつけてしまっているからです。ではなぜ、無意識にみなさんが自分とは無縁と決めつけているからでしょうか。クルーズと聞いた途端に、手の届かない高額な旅行、または定年後に叶える一生に一度の夢といったイメージが思い浮かんだ方も多いのではないでしょうか。大海原を航行する退屈な旅、毎晩、正装して食事をしたりダンスをしたりといったイメージをお持ちの方も少なからずいらっしゃったでしょう。クルーズの3大誤解「高い」「退屈」「窮屈」が、日本のクルーズ元年といわれた1991年から20年経った今も払拭されずにいるからです。

 移動、食事、エンターテイメント、遊び放題の施設が含まれるクルーズは、実はとってもお得ですし通常の旅と比べても決して高くありません。現在のクルーズは目的地への運送交通ではなく、目的地を廻る動くホテルです。おまけに寝ている間に次の目的地に到着しているので移動時間がなく、朝から観光に、船内アクティビティにと忙しく退屈とは無縁です。そして映画タイタニックのような階級社会や晩餐会は昔の話、窮屈な思いをすることもありません。クルーズ市場の中心である北米では、年間1200万人以上の人が、家族連れや夫婦や友達同士でと、日本の温泉旅行のように気楽に何度もクルーズを楽しんでいるのです。

世界のクルーズ客船の8割は、小さな子供連れのファミリーや若い方向けのカジュアル客船です。クルーズ料金は客室カテゴリーによって異なりますが、内側のキャビンなら1泊当り約5千円?1万円、7泊8日カリブ海クルーズで5万円?10万円が一般的です。みなさんがイメージしていた「数百万円」のクルーズは世界一周などのごく限られたクルーズだけなのです。

このようにきちんとクルーズについて知っていただく機会があれば、3大誤解を解くのは簡単ですし、一度クルーズの醍醐味を知ってしまった方はそのほとんどがクルーズリピーターになっています。しかし、それでも通常の海外旅行のようにすぐに予約に至らない理由が大きく3つあります。

1つ目は取消料の問題。2つ目は日本の地理的問題 3つ目は日本人の休暇に対する認識です。そして、私たちの旅行業者の最大の言い訳は、1つ目に挙げた取消料の問題、旅行業法の壁です。日本では消費者保護のため、直前まで取消料なしでの予約変更や取り消しが可能です。たとえば、海外旅行団体パッケージツアーの場合、旅行業法で30日前までの取消には手数料はかかりません。しかし、客船会社の規約では出港日から起算して90日?60日から取消料がかかります。出発の3カ月、2カ月間前から取り消し料がかかると聞くと日本人の多くは二の足を踏むようです。そしてそれは3つ目に挙げた休暇に対する日本人の認識の違いにも関連しています。ご存知の通り、欧米の先進国ではどんなに忙しい人でも長期休暇は当たり前ですし、そのために働いているともいえます。反面日本では、まだ休暇を取ることに罪悪感があり、むろん仕事のメドがたたなければ休暇を計画することはできません。またクルーズ期間は5泊?8泊が一般的なので長期休暇が取り難い日本社会では働く世代にとってハードルが高い旅となっているのです。

そして、最後は日本の地理的な問題です。クルーズの人気エリアである地中海、カリブ海、アラスカは欧米人にとってマイカーや国内線ですぐ行ける身近な海ですが、日本からは遠く、航空券の費用や時間の負担は大きくなります。近年ようやく中国市場を見越し、大手客船会社がアジアに配船するようになりましたが、運航スケジュールはどうしてもクルーズ人口の8割を占める欧米市場向けの地中海やカリブ海が多いのが現状です。クルーズ料金がお得で安いからと言って、ちょっと試しに乗ってみるかというには遠すぎますね。 加えて、言葉の壁も外国語が苦手な日本人には高いハードルのようです。飛鳥?やにっぽん丸などの邦船を除き、客船の共通言語は英語となります。食事メニューや船内新聞、案内が外国語で不安だからと個人のクルーズ旅行者数は思うよう増えません。

この20年で、旅行業法の一部改訂や、クルーズアドバイザー制度やクルーズオブザイヤーの設置などクルーズ拡販の努力は続けていますが、20年前の海外渡航者数の伸び率がほぼ倍なのに対し、外航クルーズは横ばい状態です。どうしてこんなにいい旅がどうして売れないのか?そろそろ私たち業界人が言い訳を止めクルーズを広めるにはどうしたいいか、真剣にPR戦略を考えなくてはいけません。